ミュージアムレポート

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作品にフォーカスした誠実な展示をめざして

展示環境改善のために、建物を全面改築

2015年春から全面改築のために閉館していた出光美術館 門司が2016年秋、一年半にわたる工事を終え、鉄筋3階建てとなってリニューアルオープンした。美術館と同じ敷地内には、出光興産の創業者であり、出光美術館の創設者である出光佐三氏の生涯の軌跡を紹介する「出光創業史料室」も併設。赤レンガ調の外壁が、門司港レトロの街並みにしっくりと調和している。

出光美術館 門司は、2000年に佐三氏の生誕の地である北九州市門司港レトロ地区の出光の穀物倉庫跡地を利用する形で開館し、出光コレクションを中心に日本の書画、中国・日本の陶磁器など東洋古美術の企画展を年5回程度開催してきた。しかし、もともと美術館として建てられた建物ではなく、倉庫の利用であったため、展示環境やセキュリティの問題は、開館当初からの懸案事項であったという。

「空気や温湿度の調整を安定させるため、天井に大きなファンを回すなどして工夫していましたが、部分改修ではやはりいかんともしがたく、開館15年を契機に思い切って全面改築することになりました」と、リニューアルの経緯を学芸課長の笠嶋忠幸さんは話す。

鑑賞に集中できる余計な雑音のない展示ケース

美術館を建て直すにあたり、九州のみならず東京近郊や関西など他館をあちこち見て歩き、関係者にヒアリングをおこなった結果、笠嶋さんは「様々な条件面で可能なら、展示ケースはコクヨが良いのではないか」と感じたという。その理由を笠嶋さんは次のように話す。「使いやすさやメンテナンスの良さでもコクヨさんの展示ケースは高く評価されていましたが、それに加えて、見た目がシンプルで美しく落ち着いている。美術館の主役は作品ですから、余計な雑音を感じさせず、鑑賞に集中できる点が非常に良いと思いました」。

新しくなった美術館では、2階と3階が展示室となり、独立展示ケースは、大型4面ガラスケース、行灯ケース、横長行灯ケース、傾斜覗きケースと形状の違う4つのタイプを合計33台導入。展示室内にたくさん展示ケースを並べても重たい印象とならないように、上部照明ボックスの高さを一般的な300mmから100mmに変更し、すっきりとしたフォルムを実現している。3階に設置した大型4面ガラスケースは、背面側に脱着可能な木製パネルを取り付けることができ、展示室の中央に設置して4方向から鑑賞用に使用したり、背面にパネルを取り付けて掛物の展示をしたり、汎用性の高い展示ケースとなっている。

大型4面ガラスケースは、背面側に木製パネルを脱着できる。展示室の中央に設置して4方向から鑑賞したり、背面にパネルを取り付けて掛物の展示をしたり、汎用性の高い展示ケースである。

また、2階展示室には壁面展示ケースが3か所、延べ44m設けられた。壁面展示ケースの上部3列の照明は、あらかじめ適切にフォーカシングされており、調光で光のバランスを調整するだけで、壁面展示や陶磁器展示などさまざまなシーンに適した光を素早く再現できる。壁面展示ケースのうち1か所は、出光美術館 門司の多彩なコレクションに対応できるよう、背面壁が前後に可動し、奥行きを700mm~1100mmに調整できるようになっている。

壁面展示ケースの製作は、実物大のモックアップを作り、寸法や内装のクロスの色、外装の仕上げ材、照明の見え方などを細かく検討し、最終仕様を絞り込んでいった。展示面の床高さを東京の出光美術館と合わせて300mmとやや低めに設定したため、工芸品を展示する展示台についても、モックアップで検証された。

「今回のプロジェクトは、モックアップ検証も含めた打ち合わせ期間が3か月、製作期間が2か月半、施工期間が1.5か月と比較的短い期間での納品でしたが、特に大きな問題もなく、予定通りに作業を終えることができました。一番の理由は、建築工事が完了して、施主様に引き渡しが済んだ後、建物の枯らし期間を利用して壁面展示ケースの工事ができたからです。それが大きかったですね」とコクヨの担当者は振り返る。

建築工事と並行して、壁面展示ケースの工事がおこなわれることも少なくないが、ホコリや建築工事で使う内装仕上げ材や接着剤、塗料などから放散される汚染物質の吸着、さらには不特定多数の作業者が同時に現場を行き来することによる思わぬキズの発生など、デメリットが多いという。

「その点、今回の壁面展示ケースの施工は、ちょうど7月中旬から8月末の酷暑の時期に実施しましたが、展示室全体の換気(枯らし)のために、24時間空調が稼働している状態で作業ができたので、作業者のモチベーションも高く、非常に順調に作業ができました」(コクヨ担当者)。

展示ケースの組立や施工は、ミリ単位の精度が求められ、かつケース内の環境を清浄に保つ必要があるため、この手順が標準となるように、関係者に働きかけていきたいとコクヨ担当者は話す。

製作中のモックアップ全景

壁面展示ケースの施工は、建物の建築工事が済んだ後、好ましい環境で行うことができた。

奇をてらわず、作品に誠実な展示がしたい

改築工事中は、北九州市旧大阪商船ビルに展示室を移し、2016年6月まで展覧会をおこなっていたため、実質の休館期間は4か月ほどだが、出光美術館 門司では10月28日のリニューアルオープンを待ちかねたように、立て続けに3本企画展を実施した。年間5本程度の企画展を実施していた頃からすると、かなりのハイペースだ。

実際に展示ケースを使ってみた感想を、学芸員の田中 伝さんは次のように話す。

「壁面展示ケースの使い勝手が良いですね。展示の汎用性が高いと感じています。今はまだ空気環境の様子見で、当面はやきものの企画展を組んでいますが、そのうちに紙ものの展示もやりたいですね。その時に作品がどういう風に見えるのか楽しみです」。九州ゆかりの田能村竹田の文人画や古伊万里など、ご当地性を活かした展覧会も行いたいと、田中さんは意欲を燃やす。

「当館は古美術を展示する美術館なので、現代美術の展示のような斬新さは求めません。かといって、あまりに格調が高すぎて入りにくい館にもしたくなかった。気軽に来館いただいて、展示ケースも含めて、きれいで落ち着いた展示だったね、と感じてもらえたらうれしいですね。古風かもしれませんが、作品に誠実な展示を続けていきたいと思います」と笠嶋さん。

創業者ゆかりの地で、新たな歴史を刻み始めた出光美術館 門司の今後の展覧会に注目したい。

ミュージアムのご紹介

〒801-0853 福岡県北九州市門司区東港町2-3
出光美術館 門司
ウェブサイト http://s-idemitsu-mm.or.jp/

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